ROAD to ACONCAGUA ② 準備編
〜装備概論〜
アコンカグアにおいて死亡する可能性があるとすれば、その原因は
①滑落
②重度の高山病による高地肺水腫、脳浮腫など
③低体温症
の大きく3つを挙げることが出来る。自分なりに調べ考えたこの対策としては、
①雪上での歩き方及び滑落停止の仕方を事前に学んでおく 特にアコンカグアの第1の難所として知られる大トラバースでの滑落事故が多く、アタック日までに降った雪の状況によっては撤退するなど状況判断も重要となる(主に”行動”に関わる)
②自分の体調という主観的指標、及びSpO2や血圧という客観的指標を参考にしつつ、ゆっくりと高地に順応しながら登る(一気に高度を上げすぎず、トラブルが生じた場合には高度を下げる) また水分を1日5-6Lとしっかり摂り、薬の使用も有効である(主に"行動" ”食”に関わる)
③大前提として妥協せずしっかりとした装備を揃える また食料をしっかり補給することで熱産生が出来るようにする(主に”衣” ”食” ”住”に関わる)
この①-③を達成するための装備を揃えることが準備という行為とイコールだった。しかしこの「妥協せずしっかりとした装備」というのが難しく、その理由は
・アコンカグアがどれだけ過酷な環境なのかを想像するのが難しい
標高は6961mあるため逓減率だけでも地上より約40℃ほど低い計算になり、また”風の山”とも言われ頂上での風速は酷いと20m/sを超える(この雪煙を巻き上げる程の暴風は現地でviento blanco=白い嵐、と呼ばれ恐れられる)。体感温度は風速1m/s毎に1℃下がると言われているので、夏山だとしても頂上での体感温度は-30〜40℃ぐらいだろうか?体験したことのない温度
・6000m峰に対応した装備というのがそもそも少ない
世界で標高が高い山系を順番に見ていくと、ヒマラヤ・カラコルム山脈が圧倒的に高く8000m級の山々を誇り、次にアンデス山脈がアコンカグアを主峰とし6000m級、そして登山の盛んなアルプス山脈や日本の山々などは高くとも4000m級だ。つまり6000m級の山に対応した装備というのはアンデスに登る人ぐらいにしか需要がなく、日本にはあまり入ってきていない。
・山の道具は高い
そもそも雪山を始めたのも今年からだった自分は、衣服全般、ダブルブーツ、アイゼン、ピッケル、シュラフ、、など非常に多くのものをイチから揃えねばならず、全てを新品でしかも良いものを揃えていたら幾ら金があっても足りなかった。しかし地球の裏側まで行って装備ケチったので登れませんでした、となっては一生後悔すると思ったので装備に関してはメチャクチャ調べ上げて考える努力が必要だった
などが挙げられる。
そこでpart2となるこの記事では、出来るだけコストを抑える努力をしつつどう装備を選び揃えていったかを詳しく書こうと思う。
〜装備一覧〜
装備・衣 | 新品or中古 | 値段 | 装備・行動 | 新品or中古 | 値段 | |
---|---|---|---|---|---|---|
ベースレイヤー上・中手 | 新品 | 4730 | 登山靴 | 新品 | 16360 | |
ベースレイヤー上・厚手(A) | 新品 | 6050 | ダブルブーツ(A') | 中古 | 51150 | |
ミドルレイヤー上①(B) | 中古 | 8000 | 12本爪アイゼン(B') | 新品 | 14520 | |
ミドルレイヤー上②(C) | 新品 | 4180 | ピッケル(C') | 新品 | 10120 | |
アウターレイヤー上(D) | 中古 | 24500 | ショルダーロープ(C') | 新品 | 2750 | |
ダウンジャケット(E) | 中古 | 17500 | ヘルメット | 新品 | 9790 | |
ベースレイヤー下(F) | 新品 | 5720 | サングラス(D') | 新品 | 2440 | |
ミドルレイヤー下(G) | 新品 | 5280 | ゴーグル(D') | 新品 | 5000 | |
アウターレイヤー下(H) | 中古 | 19180 | バラクラバ(E') | 新品 | 8140 | |
ベース手袋(I) | 新品 | 3520 | 耳当て | 新品 | 1000 | |
ミドル手袋(J) | 新品 | 8800 | 高度計付き時計(F') | 中古 | 21980 | |
アウター手袋(K) | 新品 | 5500 | ヘッドランプ&予備電池 | 新品 | 2000 | |
靴下×2(L) | 新品 | 6600 | 65Lザック(G') | 新品 | 31800 | |
計 | 119560 | 計 | 177050 |
装備・食 | 新品or中古 | 値段 | 装備・住 | 新品or中古 | 値段 | |
---|---|---|---|---|---|---|
クッカーセット(A'') | 中古 | 5000 | テント(A''') | 中古 | 19000 | |
ガス缶(現地)×3 | 新品 | 6000 | 竹ペグ(A''') | 新品 | 0 | |
テルモス①(B'') | 新品 | 5050 | シュラフ(B''') | 新品 | 46200 | |
テルモス②(B'') | 新品 | 2640 | 枕 | 新品 | 1000 | |
ナルゲンボトル | 新品 | 2640 | マット①クローズドセル(C''') | 新品 | 9570 | |
ハイドレーション(B'') | 新品 | 2640 | マット②エアマット(D''') | 新品 | 12100 | |
ボトルホルダー(B'') | 新品 | 1826 | 速乾性タオル | 新品 | 1000 | |
医薬品(C'') | 新品 | 0 | モバイルバッテリー×2 | 新品 | 4000 | |
食事(日本調達分)(D'') | 新品 | 4000 | ||||
食事(現地調達分) | 新品 | 15000 | ||||
計 | 44796 | 計 | 92870 |
その他備品:パンツ、半袖スポーツウェア、ボストンバッグ、ザックカバー、アタックザック、シークレットポーチ、地図、筆記用具、日焼け止め、リップクリーム、身体拭きシート、歯ブラシ、ライター、スプーンフォーク、マグカップ、救急セット、コンタクト、メガネ、トイレットペーパー、ゴミ袋、本 現地でのレンタル品:ストック |
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総費用:434276円 |
まず装備の一覧を示しておくと以上のようになる。以前から既に持っていた装備があったり、同じ登山用品店を使ってポイントやセールをを利用したりしたので今年丸々この額を払ったわけではないが純粋に商品の額だけで計算すると40万以上はかかったことになる。
装備を大別すると衣・行動・食・住と備品類というように分けられる。上表でアルファベットをふった登山用品に関して、以下で詳しく選定に至った理由などを書いていく(主に極地遠征用の商品に関して書きたいので、夏山でも使うような一般登山用品はアルファベットを外している)。Amazonのリンクがあるものに関しては飛べるようにしてあるので、参考にして頂けたら嬉しい。
〜装備・衣〜
冬山における衣服の着方はレイヤリングと称され、要は重ね着のことである。これは肌に近い順にベースレイヤー、ミドルレイヤー、アウターレイヤーと呼ばれ3層に重ね着するのが基本で、環境に応じてこの基本型を弄っていく。このレイヤリングは上半身、下半身、手袋に対して適応されるので、この順に紹介したいと思う。
・上半身
日本の厳冬期登山訓練でも3層は全然保温力が足りないと感じたため、ベースレイヤー、ミドルレイヤー①、ミドルレイヤー②、アウターレイヤー、ダウンジャケットという5層体制で挑んだ。実際5層揃えて本当に良かったし、どれか1枚でも欠けていたらアタック日には猛烈な寒さにやられていた可能性があると思う。
A.ベースレイヤー上・厚手
ベースレイヤーはmont-bellのジオラインシリーズという有名なアンダーウェアから。ジオラインシリーズはLW、MW、EXPと3種類あるがこのうちEXPは最も分厚く極地遠征にも対応している。
ベースレイヤーは肌と接する所であり、汗を逃す吸湿・速乾性が無いと汗が冷え低体温症の原因になる。このジオラインは吸湿・速乾性共に優れており、ベースレイヤーはこれ1枚で十分という信頼のおける1枚だった。ここは惜しまず新品を買って良かった。
ベースレイヤーの話になると必ずメリノウールという言葉を聞くと思うが、
・メリノウール→暖かいが速乾性はやや劣り、汗が少ない時には良い
・化繊→メリノウールより暖かさはやや劣るが、速乾性は抜群
という違いがある。
自分は汗をかきやすいためこの化繊のジオラインが合っていた。しかし汗のかきにくい部位である手や足にはメリノウールのものを使うなど、考えて使い分けすることが大事だと思う。
B.ミドルレイヤー上①
ミドルレイヤー①はこちらも有名なpatagoniaのR2というフリース。ミドルレイヤーにもまた保温性が求められるが、このR2は非常に暖かく、また行動にも適した伸縮性を持つため重宝した。今は廃盤となっているためメルカリで中古で購入したが、何も問題なく今も愛用している。
C.ミドルレイヤー上②
ミドルレイヤー②はmont-bellから、運動性と快適性を持つクリマプラス100を使用したスウェットを購入した。こちらは上記のR2に比べれば運動性は落ちると感じたが¥4000程度と安く、また用途としてはテントの中での寒い時のもう1枚、というものだったので問題は無かった。チャックとチャックが重なると擦れて鬱陶しいのでこちらはチャックの無いものを選ぶという所だけ留意した。
D.アウターレイヤー上
アウターレイヤー(ハードシェル、ヤッケとも言う)はHAGLOFSのスピッツジャケットを購入。アウターレイヤーは兎角値段が高いのが特徴で、有名所でいうとArc'teryxのベータジャケットやfinetrackのエバーブレスアクロジャケットなどがあるが、これは5-8万円程度するためとても手が届かなかった。メルカリで粘っていたところ、これらの有名所と同じ素材のgore-tex proが用いられており、また少し古い型であるということから安かったこのスピッツジャケットに辿り着いた(それでも¥24500したが)。
アウタージャケットに求められる役割は防風・防雨・防雪・耐裂傷性能などだが、このスピッツジャケットはどれも完璧で非常に良い買い物だった。アウタージャケット自体には防寒性能は備わっていないため、ここは粘って安く抑える意味はあると思う。
E.ダウンジャケット
最後に、アタック日のみ一番外に着る用途で買ったのがmont-bellのベンティスカダウンジャケット。mont-bellからは非常に多くのシリーズのダウンが出ているが、このベンティスカダウンジャケットは上から2番目の性能を誇る。767gとダウンにしては非常に重いが、ギッシリと羽毛が詰まっており暖かさは折り紙付き。日本の登山ではまず無用の長物と店員さんからも言われた極地遠征用ダウンである。
濡らしては意味が無いので、これは絶対に雨の降らない(温度的に雪にしかならない)最終アタック日のみに使用した。
・下半身
上半身に比べ寒さを感じにくいことからこちらはベースレイヤー、ミドルレイヤー、アウターレイヤーの3層で行った。動きやすさも考え下半身は3層で行く人が大半のようであるし、実際3層でも下半身で寒さを感じたことは無かった。
F.ベースレイヤー下
先程上半身のベースレイヤーでも紹介したmont-bellのジオラインEXP。下半身もセットで新品で揃えた。
G.ミドルレイヤー下
ミドルレイヤーはmont-bellのシャミースパンツというもの。正直下半身はベースレイヤーのジオラインEXPさえあれば防寒の大半は出来ていたので、安く、また寒い中素早く小便を済ませられるようにしっかりチャックの開くものを選んだ。
H.アウターレイヤー下
アウターレイヤーはMILLETのアルパインパンツをメルカリにて購入した。こちらは日本のMILLETのサイトを見ても対応商品がどれか分からなかったが、輸入品なのだろうか?
上半身のアウターレイヤーと同じく値段が高いという理由で新品は買えず、出自の分からない商品を買って不安だったが、実際の使用感は抜群だった。脚の先の方はアイゼンを引っ掛けても縫い直せるよう別の生地になっているし、また雪が侵入しないような構造になっているのでゲイターが必要ない。その他のパーツはgore-tex proを使用している。ボリビアの登山ガイドに売ってくれと言われた程である。
MILLETはティフォンシリーズが有名で登山用品店によく売っている。例えばティフォンウォームは裏起毛になっているが、これだけレイヤリングをしていればアウタージャケットに保温性は必要ないし今回の登山に関してはあまりお勧めはされなかった。また上位シリーズのトリロジーの名を関するものは格段に値段が高い。やはりアウター選びは難しいと感じた。
・手袋、靴下
手袋はレイヤリングを適用し3層。靴下は重ね履きすると、靴との間で圧迫され血行が悪くなり凍傷になる恐れがあるため1枚のみ、ただし替えを持っていった。
I.ベース手袋
ベースはexteremitiesのメリノタッチライナーグローブ。速乾性があるものが良いという理由で登山用品店で見繕ってもらったが、耐久性に欠け指先から裂けてしまったのでこれはあまり良い買い物では無かった。
濡れるとまずいので替えを持っていったが、インナーは何でも良いだろうと鷹を括ってスポーツ用品店で買った薄手のスポーツグローブを持っていった。しかし、アコンカグアで手先は異常に冷え最終的に軽い凍傷になってしまったのでここはしっかり考えた方が良い。指が残っていたから良いものの大きな反省点である。
J.ミドル手袋
ミドルはORTOVOXのベルヒテスグラブ。こちらはウール100%で保温性は抜群。
難点としては固いため手に馴染むまでに時間がかかることで、このことからも日本で雪山山行を繰り返して手袋をしたままの作業に慣れておくことは重要である。
K.アウター手袋
アウターはISUKAのウェザーテックオーバーミトン。アウターには形状によっていくつかの種類があるが、
・5本指→操作しやすいが、外気と触れる面積が大きくなるため冷えやすい
・ミトン(2本指)→暖かいが、非常に操作しにくい
という特徴があるため、中間をとって自分は3本指のものを選んだ。フリーサイズなので使い勝手も良く、良い選択だったように思う。
L.靴下
靴下はFITSのヘビーラグドブーツ。足はダラダラと流すほど汗をかくということは無いためメリノウール性のものなら何でも良かった。mont-bellのメリノウール エクスペディションソックスなどでも良いと思う。
〜装備・行動〜
次は行動時に関する装備である。こと行動に関する装備はトラブルがあっては命に直結するため、ここは惜しみなく新品を揃えた。
A'.ダブルブーツ
ダブルブーツとは内側は柔らかい素材のブーツ、外側はアイゼンが引っ掛かるように硬い素材のブーツから成る二重構造の雪山登山用の靴のことである。昔はプラスチックブーツという内も外も固い靴を使っていたが今は殆ど売っていない(自分はボリビアのワイナ・ポトシ山登山の際にレンタルで一度だけ履いた)し、そもそも日本の雪山登山なら足が暑すぎると感じるぐらいにはどちらもオーバースペックだと言われている。
6000mに対応したダブルブーツは、SCARPAのファントム6000、LA SPORTIVAのG2、ZAMBERLANのevo RRなどの種類が出回っている。(どれも性能差は殆どないと言われているが、アコンカグアではLA SPORTIVAを履いている人が多い印象だった。)しかし出回っていると言っても、去年は特に新品の輸入が乏しかったようで店頭で発見出来たのはZAMBERLANのものだけだった。そこで厚かましく店員さんに他の靴を中古で手に入れるのはどうかと聞いてみると、「この辺りの商品はやはり使用状況が限られるため中古でも使用頻度は高くなく、良い状態のものが出回っていることが多い」とのことであった。そこで自分は中古で出来るだけ状態が良さそうなものを時間をかけて探し回り、ほぼ未使用のファントム6000を定額の半額以下で手に入れることが出来た。
半額でも5万以上と非常に高かったが、足指は凍傷リスクも高く必須の買い物。
B'.12本爪アイゼン
Climbing Technologyのライカン オートマティックというアイゼン。アイゼンは滑落しないよう命を預けるものであるし、靴のサイズにぴったり合うものを選ばなければならないため登山店で新品を見繕ってもらった。種類はいくつかあり良いものだと張り付いた雪をポンプ式に排雪してくれたりするそうだが、堅牢で靴にしっかり合うものであれば良いと思う。ただ雪面がクラストしている場合を想定して先端が縦爪になっているタイプのものを選ぶことには留意した。
C'.ピッケル、ショルダーロープ
ピッケルはmont-bellのグレイシャー55、またピッケルを身体に結びつけ落とさないようにするオプションパーツとしてGRIVELのスプリングリーシュベルトを購入した。
・滑落停止が主な用途→登攀用でなくとも良いので、カーブ型(値段が高い)でなくストレート型でも良い
・最後の斜度40度以上の急斜面 グラン・キャナレーターで使うことも想定→出来るだけ短めのものを選ぶ
この2つの理由から上記のピッケルを選んだ。
D'.サングラス、ゴーグル
サングラスはAmazonチョイスのものを、ゴーグルは以前スキー場で買ったものをそのまま使った。正直ここにはあまりお金をかけられなかった。
サングラスの用途は紫外線を防ぐことにあり、雪面を歩いていてサングラスをしないと目に反射紫外線が入り雪目という症状を引き起こす。またレンズの種類は偏光レンズと調光レンズという2種類があるが、調光レンズは紫外線が少ないとレンズカラーが薄く、紫外線が多いとレンズカラーが濃くなるもので1日中掛けっぱなしで良いため自分はこちらを選んだ。
ゴーグルは雪が酷い時にのみ使用するが、後述するバラクラバ(目出し帽)と相性が悪く曇り止め対策が施されているような良いものを選んでも結局曇る。そこでゴーグルではなくバラクラバの方を良い物に変えることで対策した。
E'.バラクラバ
finetrackのバラクラバビーニーという商品。これはfinetrackのメリノスピンバラクラバという別商品にニット帽を取り付けた物である(前者が売り切れていたため後者を購入)。
バラクラバは普通鼻下を完全に塞いでしまうため、息を吐くと目の方に吐息が行きサングラスやゴーグルを曇らせる。しかしこのバラクラバビーニーは優れもので、鼻下に通気口があるため吐息が下方向に漏れるようになっている。単純な発想の商品だが、これは非常に買って良かったと思う。
またバラクラバやニット帽をずっとしていると風呂に入れない山中では頭皮が痒くなってくるため、テントの中や日が出ている時などは代わりに耳当てを使っていた。
F'.高度計付き時計
これは別に必需品ではないので商品紹介。スポーツウォッチがあると心拍管理が出来るし、(このinstinctでは出来ないが)SpO2を測れるモデルなどもあるため高地での身体変化の評価をしやすい。高度を表示できると何メートル地点までは頑張ろうというモチベーションが生まれるし、道迷いした時の手助けにも多少なる。
自分はGARMINがお気に入り。
G'.65Lザック
大型ザックとしてはかなり有名なGREGORYのバルトロ65。他にも沢山の紹介記事があると思うため詳細は省略するが、自分はフィット感と収納の多さが気に入っている。
容量は65Lの他にもう一段階大きい75Lというのがあり、隙間が空いて中の荷物が揺れるのが嫌であえて65Lを買ったが、個人的には75Lを買っても良かったかなと少し後悔している。1週間以上の山行をする場合は75Lでも大きすぎるということはないと思う。
〜装備・食〜
次は食に関する装備と食料の紹介。食料は日本から持っていったものと現地で調達したものがあるが、後者は次記事の本番編で詳しく書こうと思う。
A''.クッカーセット
SOTOのナビゲータークックシステム。大小2種類の鍋とその蓋、取っ手がコンパクトに纏まっており収納の面から非常に重宝した。
雪中テント泊では、外で調理するのは寒すぎるためテントの中でしっかり換気を行いながら煮炊きをする。そのため、テントの中でクッカーを倒して大惨事にならないようガス缶の下に引く木の板などもホームセンターで買っておくと良い。
B''.テルモス①②、ハイドレーション、ボトルホルダー
高山病の一番の対策は水分を飲むことである。アコンカグアだと大体1日5-6L飲むことが必須だと言われており、実際にシミュレーションしてみると分かるが5-6L飲むということは容易ではないため水分関連もしっかり対策した。
実際の水分の摂り方については次の本番編で書こうと思うが、ここではテルモス①750mL、テルモス②1000mL、ハイドレーション1000mLで最大2750mLを保持出来る状態にしたということを強調しておく。テントで過ごす日などは煮炊きをする時間が確保できるが、最終アタック日には身1つでコースタイム14時間は行動しなければならない。しかも一番標高が高い所に赴くのだから高山病の発症リスクも当然高い。このアタック日に朝イチと行動中で5Lを確保するには、せめて2L以上ぐらいの容量を保持出来る分の容器を持っていくのが良いと思う。
C''.医薬品
抗菌薬や感冒剤など一般的な薬も持っていったが、ここでは高山病対策の医薬品を紹介したいと思う。
高山病の薬としてはアセタゾラミド(商品名ダイアモックス)が有名だが、正直あまり効かないという声を多く聞いていた。自分は漢方薬が好きなので、ここでは高山病予防にエビデンスがあるという五苓散という漢方薬を持っていった。五苓散は「水を体内のあるべき位置に移動させる」というような作用を持つ薬で、自分は二日酔い対策に普段から愛用している。詳しくは分からないが、高山病予防も前述のように水を大量に必要とすることから水分の配置が病態に関わっているのだろう(この辺りは今後詳しく学びたい)。
また、頭痛など首の上の病気には葛根湯という漢方薬が大体効くと思っているので頭痛対策に葛根湯も持っていった。余談だが、普段他には花粉症対策に小青竜湯という漢方を、マラソンなどの足のつり対策に芍薬甘草湯という漢方を飲んでいる。漢方は良い。
D''.食事(日本調達分)
あまり持っていっても空港などの移動で大変になるので最低限だけ。自分が日本の味を恋しくなった時に何を食べたくなるかを考えたらスッと赤飯と棒ラーメン(醤油、豚骨)に決定した。
あと考え及ばず後悔しているが、レトルトカレーも持っていけば良かった。カレーだし海外にもあると何故か思い込んでしまったが、レトルトカレーは日本が誇る日本独自の文化である。
〜装備・住〜
A'''.テント
テントは中古でエスパースのマキシムミニというものを購入した。あまりに古い型のテントらしく商品リンクがどこにも出てこなかったため実物写真で(今はエスパースのマキシムナノという商品が取って代わっている)。
正直テントは夏とか冬とか関係なく何でも良い。実際富士山で雪訓をつけてもらった国際山岳ガイドの方からもそう言われたので悩んだが、重荷にはならないよう出来るだけ軽いものをと思ってこのテントを選んだ。一応このテントの特徴として中にスーパー内張りという布を仕込めるということがあり、確かに多少(?)暖かかった気がする。しかし、実際に防寒をするのはシュラフとマットであるためここにはそんなにお金を掛けたくなかった。
また雪山用にスノーフライというものがある。地面との隙間を無くし保温に役立つ物だそうだが、前述のように防寒はシュラフとマットですれば良いのでこれも不要だと判断した。
ペグについてだが、雪が深いと普通の金属ペグはうまく刺さってくれない。そこで家にあった竹細工とカラビナ、紐を用いて竹ペグというものを自作した。これがあれば雪に上手く埋もれてくれてテントが固定される。
B'''.シュラフ
ISUKAのデナリ1100。シュラフの国産3大メーカーといえばmont-bell、ISUKA、NANGAで、このうちISUKAの最強モデルがこのデナリ1100である。
寝袋の性能は快適使用温度(COMFORT)、下限使用温度(LIMIT)、限界使用温度(EXTREME)の3軸で通常評価される(ヨーロピアン・ノーム=国際規格)。このデナリ1100は限界使用温度がマイナス30度であり快適に使えるのはマイナス20度ぐらいまでである。アコンカグアの最も高い場所で寝るのはC3(6000m)であるため、風を防げるテント内であればこの使用温度なら耐え得ると判断した。公式サイトではヒマラヤにも耐え得ると謳われており温かかったが、実際にはシュラフだけでは底冷えは防げないので次に紹介するマットと併用して初めて快適な使用が出来る。
C'''.マット①クローズドセル
言わずと知れたTHERMARESTのZライトソル。アコーディオンのようになっている折畳式のマットで、ドキュメンタリーなどでこれをザックに括り高所登山する姿を見かけたことのある人もいるのではないだろうか。
実際とても優秀な品で、登山以外にあらゆる場面で使える。アルゼンチンのチャリ旅ではこれをベンチに敷くだけで野宿がホテルのように快適になったし、銀色を表に向けると保温、レモン色を表に向けると放熱とどんな気候でも使える。少しお高いが、1枚は持っておくと便利な品だと思う。
D'''.マット②エアマット
マットの2枚目はNEMOのフライヤーレギュラーマミー。これは広げた後に口で空気を入れるタイプのマットで、上記のクローズドセルマットだけでは底冷えを防ぎ切れないため2枚のマットを重ねて使用する。
このエアマットには一長一短があり、
・長所→空気の層を含むためクローズドセルより温かい
・短所→破れて空気漏れすると使い物にならない
という所である。
またエアマットにはR値という指標があり、重ねて使用すると足し算が出来るものである。今回は2.6+3.3=5.9となっているが、THERMARESTの公式サイトによると6を超えるとEXTEREME COLDに対応出来るようである。もちろん体格や脂肪の量などによるので人によって違うが、アコンカグアでは6を基準値として目指しても良いと思う。
以上が準備編である。最終章の③本番編ではいよいよ日本を出発し、ボリビアでの1週間の高地トレーニングと本番のアコンカグアで感じたことを書けたらと思う。