ROAD to ACONCAGUA ② 準備編
〜装備概論〜
アコンカグアにおいて死亡する可能性があるとすれば、その原因は
①滑落
②重度の高山病による高地肺水腫、脳浮腫など
③低体温症
の大きく3つを挙げることが出来る。自分なりに調べ考えたこの対策としては、
①雪上での歩き方及び滑落停止の仕方を事前に学んでおく 特にアコンカグアの第1の難所として知られる大トラバースでの滑落事故が多く、アタック日までに降った雪の状況によっては撤退するなど状況判断も重要となる(主に”行動”に関わる)
②自分の体調という主観的指標、及びSpO2や血圧という客観的指標を参考にしつつ、ゆっくりと高地に順応しながら登る(一気に高度を上げすぎず、トラブルが生じた場合には高度を下げる) また水分を1日5-6Lとしっかり摂り、薬の使用も有効である(主に"行動" ”食”に関わる)
③大前提として妥協せずしっかりとした装備を揃える また食料をしっかり補給することで熱産生が出来るようにする(主に”衣” ”食” ”住”に関わる)
この①-③を達成するための装備を揃えることが準備という行為とイコールだった。しかしこの「妥協せずしっかりとした装備」というのが難しく、その理由は
・アコンカグアがどれだけ過酷な環境なのかを想像するのが難しい
標高は6961mあるため逓減率だけでも地上より約40℃ほど低い計算になり、また”風の山”とも言われ頂上での風速は酷いと20m/sを超える(この雪煙を巻き上げる程の暴風は現地でviento blanco=白い嵐、と呼ばれ恐れられる)。体感温度は風速1m/s毎に1℃下がると言われているので、夏山だとしても頂上での体感温度は-30〜40℃ぐらいだろうか?体験したことのない温度
・6000m峰に対応した装備というのがそもそも少ない
世界で標高が高い山系を順番に見ていくと、ヒマラヤ・カラコルム山脈が圧倒的に高く8000m級の山々を誇り、次にアンデス山脈がアコンカグアを主峰とし6000m級、そして登山の盛んなアルプス山脈や日本の山々などは高くとも4000m級だ。つまり6000m級の山に対応した装備というのはアンデスに登る人ぐらいにしか需要がなく、日本にはあまり入ってきていない。
・山の道具は高い
そもそも雪山を始めたのも今年からだった自分は、衣服全般、ダブルブーツ、アイゼン、ピッケル、シュラフ、、など非常に多くのものをイチから揃えねばならず、全てを新品でしかも良いものを揃えていたら幾ら金があっても足りなかった。しかし地球の裏側まで行って装備ケチったので登れませんでした、となっては一生後悔すると思ったので装備に関してはメチャクチャ調べ上げて考える努力が必要だった
などが挙げられる。
そこでpart2となるこの記事では、出来るだけコストを抑える努力をしつつどう装備を選び揃えていったかを詳しく書こうと思う。
〜装備一覧〜
装備・衣 | 新品or中古 | 値段 | 装備・行動 | 新品or中古 | 値段 | |
---|---|---|---|---|---|---|
ベースレイヤー上・中手 | 新品 | 4730 | 登山靴 | 新品 | 16360 | |
ベースレイヤー上・厚手(A) | 新品 | 6050 | ダブルブーツ(A') | 中古 | 51150 | |
ミドルレイヤー上①(B) | 中古 | 8000 | 12本爪アイゼン(B') | 新品 | 14520 | |
ミドルレイヤー上②(C) | 新品 | 4180 | ピッケル(C') | 新品 | 10120 | |
アウターレイヤー上(D) | 中古 | 24500 | ショルダーロープ(C') | 新品 | 2750 | |
ダウンジャケット(E) | 中古 | 17500 | ヘルメット | 新品 | 9790 | |
ベースレイヤー下(F) | 新品 | 5720 | サングラス(D') | 新品 | 2440 | |
ミドルレイヤー下(G) | 新品 | 5280 | ゴーグル(D') | 新品 | 5000 | |
アウターレイヤー下(H) | 中古 | 19180 | バラクラバ(E') | 新品 | 8140 | |
ベース手袋(I) | 新品 | 3520 | 耳当て | 新品 | 1000 | |
ミドル手袋(J) | 新品 | 8800 | 高度計付き時計(F') | 中古 | 21980 | |
アウター手袋(K) | 新品 | 5500 | ヘッドランプ&予備電池 | 新品 | 2000 | |
靴下×2(L) | 新品 | 6600 | 65Lザック(G') | 新品 | 31800 | |
計 | 119560 | 計 | 177050 |
装備・食 | 新品or中古 | 値段 | 装備・住 | 新品or中古 | 値段 | |
---|---|---|---|---|---|---|
クッカーセット(A'') | 中古 | 5000 | テント(A''') | 中古 | 19000 | |
ガス缶(現地)×3 | 新品 | 6000 | 竹ペグ(A''') | 新品 | 0 | |
テルモス①(B'') | 新品 | 5050 | シュラフ(B''') | 新品 | 46200 | |
テルモス②(B'') | 新品 | 2640 | 枕 | 新品 | 1000 | |
ナルゲンボトル | 新品 | 2640 | マット①クローズドセル(C''') | 新品 | 9570 | |
ハイドレーション(B'') | 新品 | 2640 | マット②エアマット(D''') | 新品 | 12100 | |
ボトルホルダー(B'') | 新品 | 1826 | 速乾性タオル | 新品 | 1000 | |
医薬品(C'') | 新品 | 0 | モバイルバッテリー×2 | 新品 | 4000 | |
食事(日本調達分)(D'') | 新品 | 4000 | ||||
食事(現地調達分) | 新品 | 15000 | ||||
計 | 44796 | 計 | 92870 |
その他備品:パンツ、半袖スポーツウェア、ボストンバッグ、ザックカバー、アタックザック、シークレットポーチ、地図、筆記用具、日焼け止め、リップクリーム、身体拭きシート、歯ブラシ、ライター、スプーンフォーク、マグカップ、救急セット、コンタクト、メガネ、トイレットペーパー、ゴミ袋、本 現地でのレンタル品:ストック |
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総費用:434276円 |
まず装備の一覧を示しておくと以上のようになる。以前から既に持っていた装備があったり、同じ登山用品店を使ってポイントやセールをを利用したりしたので今年丸々この額を払ったわけではないが純粋に商品の額だけで計算すると40万以上はかかったことになる。
装備を大別すると衣・行動・食・住と備品類というように分けられる。上表でアルファベットをふった登山用品に関して、以下で詳しく選定に至った理由などを書いていく(主に極地遠征用の商品に関して書きたいので、夏山でも使うような一般登山用品はアルファベットを外している)。Amazonのリンクがあるものに関しては飛べるようにしてあるので、参考にして頂けたら嬉しい。
〜装備・衣〜
冬山における衣服の着方はレイヤリングと称され、要は重ね着のことである。これは肌に近い順にベースレイヤー、ミドルレイヤー、アウターレイヤーと呼ばれ3層に重ね着するのが基本で、環境に応じてこの基本型を弄っていく。このレイヤリングは上半身、下半身、手袋に対して適応されるので、この順に紹介したいと思う。
・上半身
日本の厳冬期登山訓練でも3層は全然保温力が足りないと感じたため、ベースレイヤー、ミドルレイヤー①、ミドルレイヤー②、アウターレイヤー、ダウンジャケットという5層体制で挑んだ。実際5層揃えて本当に良かったし、どれか1枚でも欠けていたらアタック日には猛烈な寒さにやられていた可能性があると思う。
A.ベースレイヤー上・厚手
ベースレイヤーはmont-bellのジオラインシリーズという有名なアンダーウェアから。ジオラインシリーズはLW、MW、EXPと3種類あるがこのうちEXPは最も分厚く極地遠征にも対応している。
ベースレイヤーは肌と接する所であり、汗を逃す吸湿・速乾性が無いと汗が冷え低体温症の原因になる。このジオラインは吸湿・速乾性共に優れており、ベースレイヤーはこれ1枚で十分という信頼のおける1枚だった。ここは惜しまず新品を買って良かった。
ベースレイヤーの話になると必ずメリノウールという言葉を聞くと思うが、
・メリノウール→暖かいが速乾性はやや劣り、汗が少ない時には良い
・化繊→メリノウールより暖かさはやや劣るが、速乾性は抜群
という違いがある。
自分は汗をかきやすいためこの化繊のジオラインが合っていた。しかし汗のかきにくい部位である手や足にはメリノウールのものを使うなど、考えて使い分けすることが大事だと思う。
B.ミドルレイヤー上①
ミドルレイヤー①はこちらも有名なpatagoniaのR2というフリース。ミドルレイヤーにもまた保温性が求められるが、このR2は非常に暖かく、また行動にも適した伸縮性を持つため重宝した。今は廃盤となっているためメルカリで中古で購入したが、何も問題なく今も愛用している。
C.ミドルレイヤー上②
ミドルレイヤー②はmont-bellから、運動性と快適性を持つクリマプラス100を使用したスウェットを購入した。こちらは上記のR2に比べれば運動性は落ちると感じたが¥4000程度と安く、また用途としてはテントの中での寒い時のもう1枚、というものだったので問題は無かった。チャックとチャックが重なると擦れて鬱陶しいのでこちらはチャックの無いものを選ぶという所だけ留意した。
D.アウターレイヤー上
アウターレイヤー(ハードシェル、ヤッケとも言う)はHAGLOFSのスピッツジャケットを購入。アウターレイヤーは兎角値段が高いのが特徴で、有名所でいうとArc'teryxのベータジャケットやfinetrackのエバーブレスアクロジャケットなどがあるが、これは5-8万円程度するためとても手が届かなかった。メルカリで粘っていたところ、これらの有名所と同じ素材のgore-tex proが用いられており、また少し古い型であるということから安かったこのスピッツジャケットに辿り着いた(それでも¥24500したが)。
アウタージャケットに求められる役割は防風・防雨・防雪・耐裂傷性能などだが、このスピッツジャケットはどれも完璧で非常に良い買い物だった。アウタージャケット自体には防寒性能は備わっていないため、ここは粘って安く抑える意味はあると思う。
E.ダウンジャケット
最後に、アタック日のみ一番外に着る用途で買ったのがmont-bellのベンティスカダウンジャケット。mont-bellからは非常に多くのシリーズのダウンが出ているが、このベンティスカダウンジャケットは上から2番目の性能を誇る。767gとダウンにしては非常に重いが、ギッシリと羽毛が詰まっており暖かさは折り紙付き。日本の登山ではまず無用の長物と店員さんからも言われた極地遠征用ダウンである。
濡らしては意味が無いので、これは絶対に雨の降らない(温度的に雪にしかならない)最終アタック日のみに使用した。
・下半身
上半身に比べ寒さを感じにくいことからこちらはベースレイヤー、ミドルレイヤー、アウターレイヤーの3層で行った。動きやすさも考え下半身は3層で行く人が大半のようであるし、実際3層でも下半身で寒さを感じたことは無かった。
F.ベースレイヤー下
先程上半身のベースレイヤーでも紹介したmont-bellのジオラインEXP。下半身もセットで新品で揃えた。
G.ミドルレイヤー下
ミドルレイヤーはmont-bellのシャミースパンツというもの。正直下半身はベースレイヤーのジオラインEXPさえあれば防寒の大半は出来ていたので、安く、また寒い中素早く小便を済ませられるようにしっかりチャックの開くものを選んだ。
H.アウターレイヤー下
アウターレイヤーはMILLETのアルパインパンツをメルカリにて購入した。こちらは日本のMILLETのサイトを見ても対応商品がどれか分からなかったが、輸入品なのだろうか?
上半身のアウターレイヤーと同じく値段が高いという理由で新品は買えず、出自の分からない商品を買って不安だったが、実際の使用感は抜群だった。脚の先の方はアイゼンを引っ掛けても縫い直せるよう別の生地になっているし、また雪が侵入しないような構造になっているのでゲイターが必要ない。その他のパーツはgore-tex proを使用している。ボリビアの登山ガイドに売ってくれと言われた程である。
MILLETはティフォンシリーズが有名で登山用品店によく売っている。例えばティフォンウォームは裏起毛になっているが、これだけレイヤリングをしていればアウタージャケットに保温性は必要ないし今回の登山に関してはあまりお勧めはされなかった。また上位シリーズのトリロジーの名を関するものは格段に値段が高い。やはりアウター選びは難しいと感じた。
・手袋、靴下
手袋はレイヤリングを適用し3層。靴下は重ね履きすると、靴との間で圧迫され血行が悪くなり凍傷になる恐れがあるため1枚のみ、ただし替えを持っていった。
I.ベース手袋
ベースはexteremitiesのメリノタッチライナーグローブ。速乾性があるものが良いという理由で登山用品店で見繕ってもらったが、耐久性に欠け指先から裂けてしまったのでこれはあまり良い買い物では無かった。
濡れるとまずいので替えを持っていったが、インナーは何でも良いだろうと鷹を括ってスポーツ用品店で買った薄手のスポーツグローブを持っていった。しかし、アコンカグアで手先は異常に冷え最終的に軽い凍傷になってしまったのでここはしっかり考えた方が良い。指が残っていたから良いものの大きな反省点である。
J.ミドル手袋
ミドルはORTOVOXのベルヒテスグラブ。こちらはウール100%で保温性は抜群。
難点としては固いため手に馴染むまでに時間がかかることで、このことからも日本で雪山山行を繰り返して手袋をしたままの作業に慣れておくことは重要である。
K.アウター手袋
アウターはISUKAのウェザーテックオーバーミトン。アウターには形状によっていくつかの種類があるが、
・5本指→操作しやすいが、外気と触れる面積が大きくなるため冷えやすい
・ミトン(2本指)→暖かいが、非常に操作しにくい
という特徴があるため、中間をとって自分は3本指のものを選んだ。フリーサイズなので使い勝手も良く、良い選択だったように思う。
L.靴下
靴下はFITSのヘビーラグドブーツ。足はダラダラと流すほど汗をかくということは無いためメリノウール性のものなら何でも良かった。mont-bellのメリノウール エクスペディションソックスなどでも良いと思う。
〜装備・行動〜
次は行動時に関する装備である。こと行動に関する装備はトラブルがあっては命に直結するため、ここは惜しみなく新品を揃えた。
A'.ダブルブーツ
ダブルブーツとは内側は柔らかい素材のブーツ、外側はアイゼンが引っ掛かるように硬い素材のブーツから成る二重構造の雪山登山用の靴のことである。昔はプラスチックブーツという内も外も固い靴を使っていたが今は殆ど売っていない(自分はボリビアのワイナ・ポトシ山登山の際にレンタルで一度だけ履いた)し、そもそも日本の雪山登山なら足が暑すぎると感じるぐらいにはどちらもオーバースペックだと言われている。
6000mに対応したダブルブーツは、SCARPAのファントム6000、LA SPORTIVAのG2、ZAMBERLANのevo RRなどの種類が出回っている。(どれも性能差は殆どないと言われているが、アコンカグアではLA SPORTIVAを履いている人が多い印象だった。)しかし出回っていると言っても、去年は特に新品の輸入が乏しかったようで店頭で発見出来たのはZAMBERLANのものだけだった。そこで厚かましく店員さんに他の靴を中古で手に入れるのはどうかと聞いてみると、「この辺りの商品はやはり使用状況が限られるため中古でも使用頻度は高くなく、良い状態のものが出回っていることが多い」とのことであった。そこで自分は中古で出来るだけ状態が良さそうなものを時間をかけて探し回り、ほぼ未使用のファントム6000を定額の半額以下で手に入れることが出来た。
半額でも5万以上と非常に高かったが、足指は凍傷リスクも高く必須の買い物。
B'.12本爪アイゼン
Climbing Technologyのライカン オートマティックというアイゼン。アイゼンは滑落しないよう命を預けるものであるし、靴のサイズにぴったり合うものを選ばなければならないため登山店で新品を見繕ってもらった。種類はいくつかあり良いものだと張り付いた雪をポンプ式に排雪してくれたりするそうだが、堅牢で靴にしっかり合うものであれば良いと思う。ただ雪面がクラストしている場合を想定して先端が縦爪になっているタイプのものを選ぶことには留意した。
C'.ピッケル、ショルダーロープ
ピッケルはmont-bellのグレイシャー55、またピッケルを身体に結びつけ落とさないようにするオプションパーツとしてGRIVELのスプリングリーシュベルトを購入した。
・滑落停止が主な用途→登攀用でなくとも良いので、カーブ型(値段が高い)でなくストレート型でも良い
・最後の斜度40度以上の急斜面 グラン・キャナレーターで使うことも想定→出来るだけ短めのものを選ぶ
この2つの理由から上記のピッケルを選んだ。
D'.サングラス、ゴーグル
サングラスはAmazonチョイスのものを、ゴーグルは以前スキー場で買ったものをそのまま使った。正直ここにはあまりお金をかけられなかった。
サングラスの用途は紫外線を防ぐことにあり、雪面を歩いていてサングラスをしないと目に反射紫外線が入り雪目という症状を引き起こす。またレンズの種類は偏光レンズと調光レンズという2種類があるが、調光レンズは紫外線が少ないとレンズカラーが薄く、紫外線が多いとレンズカラーが濃くなるもので1日中掛けっぱなしで良いため自分はこちらを選んだ。
ゴーグルは雪が酷い時にのみ使用するが、後述するバラクラバ(目出し帽)と相性が悪く曇り止め対策が施されているような良いものを選んでも結局曇る。そこでゴーグルではなくバラクラバの方を良い物に変えることで対策した。
E'.バラクラバ
finetrackのバラクラバビーニーという商品。これはfinetrackのメリノスピンバラクラバという別商品にニット帽を取り付けた物である(前者が売り切れていたため後者を購入)。
バラクラバは普通鼻下を完全に塞いでしまうため、息を吐くと目の方に吐息が行きサングラスやゴーグルを曇らせる。しかしこのバラクラバビーニーは優れもので、鼻下に通気口があるため吐息が下方向に漏れるようになっている。単純な発想の商品だが、これは非常に買って良かったと思う。
またバラクラバやニット帽をずっとしていると風呂に入れない山中では頭皮が痒くなってくるため、テントの中や日が出ている時などは代わりに耳当てを使っていた。
F'.高度計付き時計
これは別に必需品ではないので商品紹介。スポーツウォッチがあると心拍管理が出来るし、(このinstinctでは出来ないが)SpO2を測れるモデルなどもあるため高地での身体変化の評価をしやすい。高度を表示できると何メートル地点までは頑張ろうというモチベーションが生まれるし、道迷いした時の手助けにも多少なる。
自分はGARMINがお気に入り。
G'.65Lザック
大型ザックとしてはかなり有名なGREGORYのバルトロ65。他にも沢山の紹介記事があると思うため詳細は省略するが、自分はフィット感と収納の多さが気に入っている。
容量は65Lの他にもう一段階大きい75Lというのがあり、隙間が空いて中の荷物が揺れるのが嫌であえて65Lを買ったが、個人的には75Lを買っても良かったかなと少し後悔している。1週間以上の山行をする場合は75Lでも大きすぎるということはないと思う。
〜装備・食〜
次は食に関する装備と食料の紹介。食料は日本から持っていったものと現地で調達したものがあるが、後者は次記事の本番編で詳しく書こうと思う。
A''.クッカーセット
SOTOのナビゲータークックシステム。大小2種類の鍋とその蓋、取っ手がコンパクトに纏まっており収納の面から非常に重宝した。
雪中テント泊では、外で調理するのは寒すぎるためテントの中でしっかり換気を行いながら煮炊きをする。そのため、テントの中でクッカーを倒して大惨事にならないようガス缶の下に引く木の板などもホームセンターで買っておくと良い。
B''.テルモス①②、ハイドレーション、ボトルホルダー
高山病の一番の対策は水分を飲むことである。アコンカグアだと大体1日5-6L飲むことが必須だと言われており、実際にシミュレーションしてみると分かるが5-6L飲むということは容易ではないため水分関連もしっかり対策した。
実際の水分の摂り方については次の本番編で書こうと思うが、ここではテルモス①750mL、テルモス②1000mL、ハイドレーション1000mLで最大2750mLを保持出来る状態にしたということを強調しておく。テントで過ごす日などは煮炊きをする時間が確保できるが、最終アタック日には身1つでコースタイム14時間は行動しなければならない。しかも一番標高が高い所に赴くのだから高山病の発症リスクも当然高い。このアタック日に朝イチと行動中で5Lを確保するには、せめて2L以上ぐらいの容量を保持出来る分の容器を持っていくのが良いと思う。
C''.医薬品
抗菌薬や感冒剤など一般的な薬も持っていったが、ここでは高山病対策の医薬品を紹介したいと思う。
高山病の薬としてはアセタゾラミド(商品名ダイアモックス)が有名だが、正直あまり効かないという声を多く聞いていた。自分は漢方薬が好きなので、ここでは高山病予防にエビデンスがあるという五苓散という漢方薬を持っていった。五苓散は「水を体内のあるべき位置に移動させる」というような作用を持つ薬で、自分は二日酔い対策に普段から愛用している。詳しくは分からないが、高山病予防も前述のように水を大量に必要とすることから水分の配置が病態に関わっているのだろう(この辺りは今後詳しく学びたい)。
また、頭痛など首の上の病気には葛根湯という漢方薬が大体効くと思っているので頭痛対策に葛根湯も持っていった。余談だが、普段他には花粉症対策に小青竜湯という漢方を、マラソンなどの足のつり対策に芍薬甘草湯という漢方を飲んでいる。漢方は良い。
D''.食事(日本調達分)
あまり持っていっても空港などの移動で大変になるので最低限だけ。自分が日本の味を恋しくなった時に何を食べたくなるかを考えたらスッと赤飯と棒ラーメン(醤油、豚骨)に決定した。
あと考え及ばず後悔しているが、レトルトカレーも持っていけば良かった。カレーだし海外にもあると何故か思い込んでしまったが、レトルトカレーは日本が誇る日本独自の文化である。
〜装備・住〜
A'''.テント
テントは中古でエスパースのマキシムミニというものを購入した。あまりに古い型のテントらしく商品リンクがどこにも出てこなかったため実物写真で(今はエスパースのマキシムナノという商品が取って代わっている)。
正直テントは夏とか冬とか関係なく何でも良い。実際富士山で雪訓をつけてもらった国際山岳ガイドの方からもそう言われたので悩んだが、重荷にはならないよう出来るだけ軽いものをと思ってこのテントを選んだ。一応このテントの特徴として中にスーパー内張りという布を仕込めるということがあり、確かに多少(?)暖かかった気がする。しかし、実際に防寒をするのはシュラフとマットであるためここにはそんなにお金を掛けたくなかった。
また雪山用にスノーフライというものがある。地面との隙間を無くし保温に役立つ物だそうだが、前述のように防寒はシュラフとマットですれば良いのでこれも不要だと判断した。
ペグについてだが、雪が深いと普通の金属ペグはうまく刺さってくれない。そこで家にあった竹細工とカラビナ、紐を用いて竹ペグというものを自作した。これがあれば雪に上手く埋もれてくれてテントが固定される。
B'''.シュラフ
ISUKAのデナリ1100。シュラフの国産3大メーカーといえばmont-bell、ISUKA、NANGAで、このうちISUKAの最強モデルがこのデナリ1100である。
寝袋の性能は快適使用温度(COMFORT)、下限使用温度(LIMIT)、限界使用温度(EXTREME)の3軸で通常評価される(ヨーロピアン・ノーム=国際規格)。このデナリ1100は限界使用温度がマイナス30度であり快適に使えるのはマイナス20度ぐらいまでである。アコンカグアの最も高い場所で寝るのはC3(6000m)であるため、風を防げるテント内であればこの使用温度なら耐え得ると判断した。公式サイトではヒマラヤにも耐え得ると謳われており温かかったが、実際にはシュラフだけでは底冷えは防げないので次に紹介するマットと併用して初めて快適な使用が出来る。
C'''.マット①クローズドセル
言わずと知れたTHERMARESTのZライトソル。アコーディオンのようになっている折畳式のマットで、ドキュメンタリーなどでこれをザックに括り高所登山する姿を見かけたことのある人もいるのではないだろうか。
実際とても優秀な品で、登山以外にあらゆる場面で使える。アルゼンチンのチャリ旅ではこれをベンチに敷くだけで野宿がホテルのように快適になったし、銀色を表に向けると保温、レモン色を表に向けると放熱とどんな気候でも使える。少しお高いが、1枚は持っておくと便利な品だと思う。
D'''.マット②エアマット
マットの2枚目はNEMOのフライヤーレギュラーマミー。これは広げた後に口で空気を入れるタイプのマットで、上記のクローズドセルマットだけでは底冷えを防ぎ切れないため2枚のマットを重ねて使用する。
このエアマットには一長一短があり、
・長所→空気の層を含むためクローズドセルより温かい
・短所→破れて空気漏れすると使い物にならない
という所である。
またエアマットにはR値という指標があり、重ねて使用すると足し算が出来るものである。今回は2.6+3.3=5.9となっているが、THERMARESTの公式サイトによると6を超えるとEXTEREME COLDに対応出来るようである。もちろん体格や脂肪の量などによるので人によって違うが、アコンカグアでは6を基準値として目指しても良いと思う。
以上が準備編である。最終章の③本番編ではいよいよ日本を出発し、ボリビアでの1週間の高地トレーニングと本番のアコンカグアで感じたことを書けたらと思う。
ROAD to ACONCAGUA ①トレーニング編
〜プロローグ(2022年3月)〜
始まりは後輩から送られてきたとある一枚の写真だった。アフリカ大陸最高峰・キリマンジャロの山頂(正確にはその直下のステラ・ポイント)でソイポをしている写真である。
この写真がどう自分の琴線に触れたかハッキリと覚えてはいないが、悔しさと憧れが綯い交ぜになった気持ちにさせられたように記憶している。
コロナで3年ほど海外旅行に行けておらず次の1年後に久々にどこか海外に出ようと考えていたこと、そしてコロナで外に出る用事が減り時間が取りやすかったことを併せ考え、
「1年しっかりトレーニングして海外峰をやる」
これが自分の目標として決まった。
登る山を決めるのにはそう時間はかからなかった。後輩は元々体力はあったが日本でガチガチにトレーニングしてからキリマンジャロに登っていたという訳ではなかったので(今思うと怪物だが)、7大陸最高峰のうちプロレベルのエベレスト、マッキンリー、金銭的な問題があるヴィンソン・マシフを除き、素人が太刀打ち出来る最も高い山・南米最高峰アコンカグア(6961m)が1年を賭けるに値する山だと判断し、その後輩にも声をかけ一緒に真剣に目指そうということになった。
とはいえ当時の自分は喫煙者、週7ラーメン、中高大帰宅部で運動経験とは無縁で何をどう始めればいいのかよく分かっていなかった。アコンカグア登山者のブログを見ても、登山道具や登山中の様子が綴られているだけで「どれぐらいの体力の人間が、どういったトレーニングを積んでスタート地点に立っているのか」という点が不透明であった。故に、アコンカグアのブログを書くに当たって最も大事にしたいと思っていたのはこの「スタート地点までに自分が日本で何ををしたのか」について紹介する事である。
これから海外峰をやりたいという過去の自分のような人に向けて書くつもりなので興味の無い人が大半かもしれないが、これから登山や運動を始めようと思っている人の参考に、あるいは自分よりもっと経験豊富な諸氏からこういったトレーニングも良いというアドバイスを頂けたりして交流出来る場になれば嬉しい限りである。
〜春 ランニングか、筋トレか(2022年3-5月)〜
運動経験の無い人間にとって、まず思いつくトレーニングといえばランニングと筋トレの2つだろう。しかし、この2つが相性が悪いのは何となく始める前から察しがついていた。ムキムキのマラソン選手は存在しないからである。
そこで、どちらに自分のトレーニング時間を捧げればよいのか、オタクらしく本に頼ってみることにした。
結局1年間ずっと重宝することになった「登山の運動生理学とトレーニング学」という本である。これはたまたま南アルプス・鳳凰小屋の青年のブログを読んでいる時に知ったのだが、海外峰のバイブルのような存在として一部では有名な本であるようだった。
この本によると、「高所登山において筋肉をつけすぎると身体の酸素要求量が増え高山病になるリスクが大きくなり、またパワーに頼り短い時間で完遂させる登山に傾倒するようになるのでこれもまた高度順応の観点から良くはない」(要約)とのことであった。しかし筋トレをやらなくていいということでは無いので、あくまで位置付けとして「ランニングがメイン、筋トレが補助」というスタンスでトレーニングを開始することとした。
そうと決まればひたすらランニングだ。3月の頭から始め、5月末にまずハーフマラソンを完走するという目標からスタートした。
この頃はメニューもへったくれも無かった。ただ毎日走って、辛くなったらやめるといった感じで継続を図ることが目的だった。ランニングを始めて3週間ぐらいで初めて10kmを完走した時のタイムは56分57秒(5:40/km)であった。
ここで続かなかったらアコンカグアなど到底夢のまた夢で終わっていただろうが、初めて10kmを完走した時の嬉しさを未だに覚えていることからも分かるようにランニングで小さな目標を達成していくこと自体がとても楽しかった。トレーニングを続けるコツは、健康のためとかそういう大義名分でやっていてはつまらないのでそのトレーニング自体のレベルアップを楽しむことだと思う。
そして日々のトレーニングをしつつ、実際に登山に慣れ親しむことも初期にやるべきことであった。
5月のGWには初めてのテント泊で南八ヶ岳(赤岳、横岳、硫黄岳)を1泊2日で縦走した。目的としてはアコンカグアを見据えテント泊に慣れるということだったが、それよりもランニングを始めたことで身体が軽くなったような楽さに刹那的な喜びを見出していたことを覚えている。
このように、1年間の過ごし方としては日々のトレーニング→イベントでその成果を確認、の繰り返しであったのでブログもそれに従って書いていこうと思う(日々勉強して模試で実力を確認するようなもん?)。
そして、より行動に適した身体にするためこの時期には減量も行った。
これも正しいことをいえばしっかり筋トレをして代謝を良くし、適度に有酸素運動をするのが一番痩せるのだが、そんな悠長なことを言っていては1年はあっという間に過ぎてしまう。自分は業務用スーパーのスモークチキン1kgを買ってきて、たまのチートデーのラーメン以外は炭水化物抜き、毎日スモークチキンと納豆のみを食べ腹が減ったら水を飲む(1日5-6L飲んでいた)という生活を続けた所2ヶ月で72kg→60kgに落ちた。今思うと明らかに良くないやり方だったが、山で腹が減っても行動しなければならないという状況にも耐性が出来た点ではその後に生きた経験だったと思う。
またこの時期には誘われて初めてトレイルランというものもやった。自分の住む京都には京都一周トレイル(全82km)というグルっと市街地を取り囲むような山々に整備されたルートがある。いくつかにコース分けされているので短い距離から取り組むことができ、初めてのこの日は23kmを設定してもらった。平地でさえキツい距離だったが何とか後ろについて行き完走した。「その時点での自分のキャパを超えるようなイベントを設定し精神力で何とかする」のが荒療治そのものだが大きな身体能力の向上に繋がる、というその後の指針になる考え方はここで得た気がする(ただし怪我には細心の注意を払った)。
初のハーフマラソンは1時間37分53秒(4:38/km)でゴール。当初2時間切りを目標としてランニングを始めたことを思うと好タイムだった。
【まとめ】
・メニューなどは作らず、1回5−10kmのランニングで月間走行距離は50-100km
・筋トレはまだほぼやっておらずYouTubeの5分で腹筋バキバキ!みたいな適当な動画を家で空いた時間に見た
・減量は炭水化物抜きダイエットで
・登山はせいぜい日帰りか1泊2日程度の山行のみ
〜夏 精神と時の南アルプス全山(6-8月)〜
前編でランニングに捧げる、と意気揚々と宣言したものの梅雨&京都の猛暑の時期が襲い来る。初めの内こそ室内のランニングマシーンで走ったりしていたが、どうもあまりトレーニングのモチベが湧かず不味いと思っていたところで、元ラグビー部の友人が筋トレを教えてくれるという話になり大学のトレ室に行くこととなった。
昔健康のためと一瞬だけジムに入会していた自分にとって筋トレといえば使い方のよく分からないマシンをまたやるのか、ぐらいのイメージだったが、彼はゴリゴリの筋トレマンで「マシンは不要、フリーウェイト(バーベル、ダンベルを使い軌道が固定されていない筋トレ)をやるべきだ」という持論を自分に教えてくれた。実際フリーウェイトは正しいフォームでやらないと怪我をするのでちゃんと人に教われるのはありがたかったし、ジムに入会する金は惜しく大学のトレ室でタダでやれる点からも積極的にフリーウェイトをやるようになっていった。
いくつかの種目を覚えていく中で登山における筋トレの意義は、「怪我をしない=関節を痛めないための筋力強化」にあると自分は考えた。そこで自分流に組んだメニューは具体的に以下である。(※体重60kg)
❶上部の日=肩関節周りを補強する日、大胸筋と三角筋狙い
ベンチプレス40kg×10rep×3set
ダンベルフライ15kg×10rep×3set、あるいはディップス10rep×3set
ショルダープレス20kg×10rep×3set
サイドレイズ10kg×10rep×3set
❷中部の日=腰関節周り(体幹)を補強する日、広背筋と腹直筋狙い
懸垂計20回→補助バンドありorネガティブ懸垂計20回
デッドリフト60kg×10rep×3set
アブローラー10rep×3set
ハンギングレッグレイズ10rep×3set
❸下部の日=膝関節周りを補強する日、大腿四頭筋狙い
スクワット60kg×10rep×5set
日によっては3setで終わりランジ両足各10rep×2setずつ、あるいはブルガリアンスクワット片手15kgずつで同set
といった具合である。トレーニーからしたらオモチャみたいな重量だが、このメニューで週3で組めるようになるのにもかなり時間がかかった。しかしこのおかげか、登山で多い関節トラブルは一度もなくアコンカグア(とその後のチャリ3300km旅)まで終えられたので確実に設定した意義を満たすことは出来ていたと思う。
さて夏も終盤に差し掛かり、ある程度身体が出来上がってきた所でプレ・アコンカグアとしては最大のイベント「7泊8日南アルプス全山縦走」に出かけた。
夜叉神峠から入り畑薙ダムに降りるまで、136kmの山道を8日かけて歩いたのだが、詳しい行程を書いていたら1つのブログになってしまうのでここではアコンカグアに通ずるような何を得たのかについて書くことに終始する(ルートや写真にもし興味があれば Twitterで南アルプス from:eiheideichein で検索すると出てきます)
・歩荷力
歩荷(ボッカ)とは、重い荷物を担いで山へ上げる仕事をする人あるいは行為のことである。ここでは1週間分の食料、行動食、テント、寝袋などを含め計25kgを65Lのザックに背負って歩いた。最初はキツかったが、段々とパッキングによって重心を変えたり、ザックのベルトを調節して負担を分散できるような背負い方を習得していった。
・長時間行動力
上記の理由からとても軽快な山行は出来ず、また南アルプスは小屋と小屋の間隔が異常に長いことから必然的に行動時間は1日14-15時間となった。毎朝1時に起きて飯を食って2時に出発、着くのは夕方頃でそこからテントを張って飯を食って寝る生活を続けた。これはアコンカグアでのアタック日を想定した行動時間である。アコンカグアでは高度6000mという非常に酸素が薄い所からアタックをスタートすることを考えると、日本の山ではこれぐらいの行動時間が苦にならないぐらいの体力は必要だったかなと思う。
・水分管理力
南アルプスはとかく水場が少ない。次の水場までにどれぐらい水を汲んでおけば大丈夫なのかの計算は難しく、特に1泊ビバーク(不時着で小屋で無いところにテントを張ること)を挟んだ時は翌昼の水場に辿り着くまで口渇で幻覚を見かけた。これもアコンカグアで必須のスキル。
他にも色々とあったのだがアコンカグアに大きく生きたのはこの3つだと思う。実際アコンカグアだけでなくサバイバルそのものへの処理能力もここで大いに学んだし、1週間山で過ごすことが出来れば大抵の状況には耐えうるなと思うぐらいには人間として強度が上がった山行でもあった。非常にやる価値は大きかったと思う。
【まとめ】
・ランニングはたまにランニングマシンで走るのみでサボり気味
・そのぶん筋トレの素地を作り、また積極的に山に出かけ(上記南アルプス以外にも表銀座で槍ヶ岳を登ったりしている)長日数、長時間行動を意識した山行を行った
〜秋 地獄の120kmマラソン(9-11月)〜
南アルプスより帰還し、京都はすっかり涼しくなり始めていた。山も街もバッチリ紅葉シーズンで出かけたい所だったが、そろそろアコンカグアに向け登山道具を揃え渡航費用も貯めなければならないことを考えるとバイトはすれど外出は一度も出来なかった。という状況になっても金がかからず出来るのがランニングの良い所だ、ここで本来のトレーニングの軸であるランニングにじっくり腰を据えて打ち込むこととした。
この頃にはランニングも自分でメニューを組んでやれるようになっていた。基本となった週のルーティンは
①10kmペース走
②1時間走
③インターバル走1km×5本 or トレイルランニング
④もう一度10kmペース走
の週4ランニングである。ポイントは②で筋持久力をつけ、③で心肺機能向上を図り、①→④の縮まったタイムで1週間の成果を可視化することで日々のモチベーションに繋げたという所である。
具体的にはこんな感じで1週間でも結構伸びがあるのが見て取れる。これに加え月に1回のフルマラソン、1回のハーフマラソンを行い、その前後は上のルーティンに穴を開けて休んだので概ね月間走行距離は200km弱といった所であった。いきなりこのメニューを組んだら確実に怪我をしていたし、半年かけてきた下積みが功を奏していたと思う。(サブ3を狙うランナーならこれでもヌルいぐらいだと考えるとサブ3ランナーは本当に尊敬に値する。)
具体的なランニングの目標は10km40分切り、ハーフマラソン1時間半切り、フルマラソン3時間半切り(サブ3.5)の3つを達成することだった。最終的に自分は10km39分36秒(3:57/km)、ハーフマラソン1時間29分55秒(4:16/km)と前者2つは達成したが、サブ3.5はフルマラソンの30km以降に来る枯渇にうまく対処できず達成は出来なかった。キリマンジャロ後輩と話したが、「アコンカグアに登るためにどれぐらいの体力がいるのか?」という質問にランニングという分かりやすい基準で答えるとしたらこの辺りを目標に設定しても良いんじゃないかと思う(勿論競技自体違うのでまあ関係ないっちゃないが)。
この時期は週4のランニングに週3の筋トレと週7でトレーニングを行っていた。元より本気だったが、この時期に南米行きの最終的な覚悟を決めたように思う。
こういった日々のトレーニングをこなす中で秋シーズンのラスボスとして設定したのが、弊学の寮主催のイベントである「エクストリーム帰寮」というイベントだった。
これは京都の熊野にある寮から車で各地へ飛ばされ自分の足だけで寮へ帰る、というシンプルな催しであるのだが面白いのは「飛ばされる距離を自分で申告出来る」という点にある。5km、10kmで夜の散歩感覚を楽しむ人もいるし、20-30kmでも歩くとなればそれなりにキツい。ここで自分とキリマンジャロ後輩は「今回の大会最長距離でお願いします」と申告し、120kmの帰寮をすることが決定した。
深夜4時、降ろされた場所は兵庫の豊岡。出発時は自信に溢れていたのだがフルマラソンを遂行した時点でまだ福知山だと分かった時はとんでもない距離を申告してしまったか、と焦燥を隠せなかった。
その後は国道9号に接続し、緩やかだがアップダウンの続く道が容赦無く脚を痛めつける。またこのエクストリーム帰寮のルールとして財布を持っていってはいけない、というものがあるため事前の補給品以外のものを飲み食いするわけにはいかず、コンビニのトイレや公園の水を飲んで渇きを凌いだ。極限環境においては辛いと言っても誰も助けてはくれず自分の道具と脚で進むしかない、ということを考えるとアコンカグアの訓練として再現性は十二分にあった。
最後の方は脚を引き摺りながら歩いていたため1時間で2-3kmしか進むことが出来なかった。最後の亀岡→京都市内の峠越えはグラン・キャナレーター(アコンカグア最後の難所)にすら思えたが、22時間をかけなんとかゴールした。涙が出るほどキツかったが、この1年で最も辛く達成感のあったトレーニングが終わった。
【まとめ】
・ランニングも筋トレも夏までに作った素地を活かし、ガチガチにメニューを組んでそれを遂行することに賭けた
〜冬 雪山訓練で最終調整(12-1月)〜
エクストリーム帰寮より1週間後、いよいよ冬山シーズン到来ということで我々は初冬の富士山へ来ていた。
アコンカグアへ登るのは2月、向こうは夏山だが6000m以降は万年雪が積もっており、また天候によってはベースキャンプのある4000m付近からずっと雪山登山だ。しっかりとした雪山登山の知識をつけるため、ヒマラヤ・アンデスの登山に詳しい国際山岳ガイドの平岡竜石さんにアポを取り富士山で雪山訓練をつけてもらった。
具体的には雪上でのアイゼン装着時の歩き方、滑落しそうになった場合のピッケルを使った滑落停止の仕方、雪上でテント泊する際に注意する点などを教わった。いずれも具体的にやってみないとイメージがつきにくいことで、これを実績のある人に教えてもらえたことでアコンカグアでの山行を鮮明に想像できるようになった。
また山に関する話もワクワクするものが多かった。平岡さんは大学3年次にヒマラヤ・シシャパンマ(8027m、世界第14位の高峰)に挑戦しているが、当時は関東の大学山岳部でやる気のある人達が大学の垣根を超え海外峰への夢を語り合う機会が多くあったそうで、昭和の山男達が強い理由も垣間見えた。
一通り雪山知識を教わったのち、次にそれを一人で再現できるか確認するために夏道を見知っている南八ヶ岳に出かけた。
行程は行者小屋で1泊テント泊し、文三郎尾根から赤岳、その後横岳、硫黄岳と縦走し赤岳鉱泉へ帰ってくる一筆書きのコースである。
アコンカグアでは高山病を防ぐために1日5-6Lの水を飲まなければならず、またこの水分量を雪を溶かして煮炊きしなければならない。テント場ではそういった具体的なシミュレーションをしつつ現地での献立を考え、歩行中にはしっかり一歩一歩アイゼンを効かせ教わったことを確かめながら事故のないように、また装備に関して不足がないかをひたすら考え続けた(この辺りは次の準備編で書けたらと思う)。
そして最後の訓練の舞台に選んだのは北アルプス、鹿島槍ヶ岳である。
実際は南八ヶ岳で確認は終わっていたのだが、ここではアコンカグア登頂を更に安全に盤石なものにするために踏み込んだテーマを設定した。具体的には以下の2点だ。
・ルートファインディング・ラッセルの練習
トレース(踏み跡)が無い時は自分でどのルートを辿るのが良いのかを見極め、その上で自分で雪を踏み分けていかなければならない(ラッセル)。それゆえあまり人がいなさそうなこの鹿島槍ヶ岳を選び、膝上程に積もった雪を一歩一歩踏みしめていった。これはトレースがある場合より数段体力を使うが、アコンカグアでは今シーズン雪が多く最終ラッセル勝負になるかもしれないという情報を仕入れていたためやっておく必要を感じた。
・状況を見たアタックの判断
人があまりいないということは勿論それだけ危険が伴う。特に雪崩には気をつけねばならず、昼を過ぎて太陽光が雪面に当たると表層が溶け雪崩が起きやすくなるため、朝早く雪が締まった時間帯にアタックを行う。しかしそれ以外にも雪崩の発生する条件は多く素人どころかプロでも判断しかねる状況もあるので、注意できるポイントは事前に予習しその判断を真似るようには努力した。
【まとめ】
・日々のトレーニングは秋からの継続で週7がもう染み付いており、体力に関してあまり心配はなかった
・冬山の知識をつけ、出来るだけ安全な山行ができるよう注力した
これにて1年間のトレーニングは全て終了。
本来登山はゆったり自分のペースで、徐々にレベルアップしていくものだしこんな詰め込み式のトレーニングは必要ないと思う。が、1年真剣に打ち込んだという過程はアコンカグアに登っている瞬間そのものと同じぐらい価値があったと感じている。
もし何か感じ取って貰えるところがあれば嬉しいです。
真冬のアウトドアサウナアクティビティ・十勝アヴァントレポ
今回は北海道にて今年から本格稼働が始まったアウトドアサウナアクティビティ・十勝アヴァントを体験してきたので紹介
ウリは「凍った川を掘削して作った水風呂に飛び込める」というもので、自分もその様子が撮られた写真をSNSで見かけて気になったことで訪問することを決めた
舞台は道央・新得町にあるくったり湖という十勝川のダム湖で、夏はラフティングやカヌーなどが体験出来るが冬は完全に凍結しそれらが出来ないことから、冬も何か出来ないかと考えついたそうだ(3年前ほどからこの辺りの界隈のサウナーの仲間内で試運転しており、今年からいよいよ本格稼働し大々的に宣伝し始めたらしい)
新得町は千歳から2時間、帯広から1時間とアクセスも悪くなく、この十勝アヴァントを町の新名物にしようと今日も町のプロモーションビデオ撮影、新聞取材など多数のメディアが訪れていた
くったり湖
https://maps.app.goo.gl/iQ4DpFbeansqBcYE7
今回は1ヶ月ほど前に予約し訪問 降り立った瞬間広々とした山の景色といくつかのサウナ小屋を発見しテンションが上がる
チェックインを済ませ説明を受け、いよいよ待望のサウナに入る サウナだけでも3つあり、湖に飛び込むというウリだけでなくサウナ自体にもしっかり力を入れていることをここで知った
まず1セット目は目についたバレルサウナから入った サウナは全てストーン式のサウナでセルフロウリュが可能なのが最高だ
バレルサウナは3つの中で一番低めの温度設定なのでじっくりと15分ほど身体を温めた
そしていよいよ目玉の湖飛び込みをする
この日の湖の水温は0.2℃ 飛び込む事自体がチャレンジのような雰囲気になっており、ここはワイワイと色々な写真を撮ってもらった
目玉というだけあり、確かにここでしか体験出来ない刺激的なアクティビティだった
そして休憩へ これが凄く、アイスカルーセルという円形の氷片が浮いたものでスタッフさんが回転させてくれる 本当に世界が回ったような感覚になり、また目を開ければ360°広がる氷の湖の絶景を楽しめた こんな贅沢な外気浴は中々無い
気持ち良くなりながらひとしきり景色を楽しんだ後は2セット目へ
次は水牛サウナという3つの中で最も高温のサウナへ 自分達は一番乗りだったので温度は120℃を指しており0.2℃の水風呂への準備を整えるならここという感じだった
また大きな特徴としてサウナ部屋から湖を望む方向へ大きな窓がついており、景色を楽しみながらサウナに入ることが出来た
そして2セット目の休憩も同様に水風呂に入ってから外気浴をした このタイミングで太陽光も射して気温は6℃、普段より全然温かいらしく良いコンディションで外気浴が出来たことがありがたかった
北海道サウナでは休憩中ガラナを飲むのも至福
そして3セット目はコンクリートサウナへ デザインもお洒落かつここにも窓がついている
ここが3つの中で中間的な温度設定ということもあり、スタンダードに良質なサウナだった サ室が狭目なのでとりわけロウリュも気持ち良い
そして次は雪へとダイブ これは以前長野・野尻湖のThe Saunaでも体験したが、火照った身体が冷えていって気持ち良いもの
休憩はインフィニティチェアも完備でスペースに困ることはなかった この日は予約が満員で15人ほどいて驚いたが、北海道のサウナーの間では既に有名らしくこの町の新たな名物になる日も遠くないのかなと思ったりした
最後に4セット目を水牛サウナで行い、十分に満足して制限の2時間を終えた またこの後には横の施設にて温泉に入ることも出来たので最後に身体を温めた こちらにもサウナがついており、時間がある人はここで更にセット数を重ねるらしくて笑ってしまった
これにて行程を終了 大自然を楽しむという名目だけでも素晴らしいが、サウナ大好き人間が理想のサウナを作ったということからも分かる珠玉のサウナが揃っていて、少しでもサウナが好きな人間なら120%楽しめる最高の施設だった
料金は¥19500と贅沢だがそれに見合うぐらい思い出に残る体験が出来た 是非また来ようと思う